弁護士 金 愛子
今年が始まったかと思えば、もう2月が終わろうとしています。
今月は、昨今話題になっている「退職代行サービス」について取り上げたいと思います。
1.日本における退職代行サービスの台頭
2018年頃から、日本では、「退職代行サービス」というものが注目されるようになりました。退職代行サービス業者(以下「業者」といいます)のホームページを見てみますと、おおむね、①退職の意思表示、②有給休暇の消化、③離職票等の書類の取次等を依頼者に代わって行い、依頼者が業者に数万円の料金を支払うケースが多いようです。
“ブラック企業問題”が注目される現代において、「パワハラ上司がいる会社に、辞めるとは言い出せない」「辞めるといっても、絶対に引き止められる」等、自分で退職することをためらう人に寄り添ったサービスとして、利用されているようです。
2.「非弁行為」のおそれ
しかしながら、ほんの一例ですが、次のようなケースには、退職代行サービスは利用できません。
(1)退職を機に、会社に未払賃金を請求したい
(2)退職金をもらいたい
(3)在籍していた当時、上司からセクハラ・パワハラを受けていた。退職を機に、損害賠償請求をしたい
弁護士法72条は、弁護士以外の者が、報酬を得る目的で、「法律事件に関する法律事務」を行うことを禁止しています(いわゆる「非弁行為」の禁止)。たとえ訴訟でなくとも、損害賠償に関する交渉等は、「法律事務」に該当するので、弁護士以外の者ができない、というのが判例の立場です。
したがって、上記(1)~(3)のような交渉は、弁護士以外の者が行うことは禁止されていますので、退職希望の方は、弁護士に相談する必要があります。弁護士以外の者から、上記(1)~(3)のような請求を受けた会社側も、まずは弁護士に相談するのが良いでしょう。
詳細は、以下の通りです。
3.「非弁行為」のリスク
非弁行為には、刑事上・民事上の問題があります。まず、刑事上の問題として、非弁行為には刑罰規定(「二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金」)があります。
民事上の問題点についてですが、裁判所は、非弁行為は民法90条に違反し、無効であると判断しています。よって、業者の行為が非弁行為に該当する場合、①業者に依頼した手続きが全て無効になり、退職が出来ないことになる(無断欠勤扱いになり、懲戒解雇もありうる)、②会社が損害を被った場合には、会社から損害賠償請求をされる可能性がある、というリスクがあります。
他にも種々のリスクがありますが、本稿では割愛することと致します。
4.まとめ
(1)退職に悩む皆様へ
自分が矢面に立たずに退職したい場合には、最初から弁護士に依頼した方が良いでしょう。 弁護士が入ると、紛争が大きくなってしまうのではないか、と考える方も多いと思いますが、それは誤解です。また、費用が不安だという方がいらっしゃるかもしれませんが、その点も含めて、弁護士に相談するのが良いでしょう。親身になってくれる弁護士は多いと思います。また、弁護士費用を立替える制度(法テラス)もあります。
(2)退職代行サービスから連絡を受けた企業の方へ
上記の通り、業者の行為は非弁行為に該当する可能性がありますので、まずは本人と連絡をとりたいと申し出るか、本人が委任した弁護士とやり取りをしたい、と伝えるのが良いでしょう。
どうしたら良いか迷われた場合には、弁護士等、専門家に相談することが、損害を最小限に抑える手段だと思います。