近年、労働者にとってわかりやすい給与制度として、職務給制度を採用する企業が増えています。職務給制度では、①職務内容、②職務達成度によって賃金が決定されますが、職務内容の変更(配置転換)に伴って労働者の賃金が減額される場合は注意が必要です。
1 会社の配転命令権
職務内容の変更(配置転換)は、労働者の勤務場所や職種・職務内容を長期間にわたって変更する企業内の人事異動をいいます。
日本の企業においては、一般的に就業規則に配転条項が定められていることが多く、就業規則に「会社は業務上の都合により転勤を命ずることができる」などの包括的な規定がある場合には、原則として、会社は、労働契約上労働者に対する配転命令権を有することとなります。また、配転の人選、勤務場所及び配転後の職種・職務内容については、人事権の行使として、一般的に会社の裁量権が認められています。
2 賃金減額が伴う場合(日本ガイダント仙台営業所事件・仙台地決平成14.11.14労判842号56頁)
しかしながら、職務内容の変更(配置転換)に伴って当該労働者の賃金減額が伴う場合には、会社に広範な裁量権は認められません。
日本ガイダント仙台営業所事件(仙台地決平成14.11.14労判842号56頁)は、「従前の賃金を大幅に切り下げる場合の配転命令の効力を判断するにあたっては、賃金が労働条件中最も重要な要素であり、賃金減少が労働者の経済生活に直接かつ重大な影響を与えることから、配転の側面における使用者の人事権の裁量を重視することはできず、労働者の適性、能力、実績等の労働者の帰責性の有無及びその程度、降格の動機及び目的、使用者側の業務上の必要性の有無及びその程度、降格の運用状況等を総合考慮し、従前の賃金からの減少を相当とする客観的合理性がない限り、当該降格は無効と解すべきである。」と判断しました。さらに、同判例は、降格が無効となった場合には、配転命令に基づく賃金の減少を根拠付けることができなくなるため、賃金減少の原因となった配置転換自体も無効となると判断しました。
3 労働者の同意の必要性
このように、賃金は労働者にとって極めて重要な労働条件であることから、法は賃金の減額については会社の裁量権を認めず、会社に対して厳しい制限を設けているといえます。したがって、職務内容の変更(配置転換)に伴って賃金の減額が行われる場合には、単に配転を命令するだけでなく、賃金減額について個別に労働者の同意を得る必要があるといえるでしょう。もちろん、賃金減額への同意は当該労働者の真意に基づくものでなければなりません。個別の労働者の同意なく賃金減額を伴う配置転換が行われた場合、後々当該労働者とトラブルになり、賃金の減額だけでなく当該配置転換まで無効になってしまう可能性がありますが、配置転換の無効によって会社の業務が大混乱に陥ることは想像に難くありません。
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弁護士 裵 悠