弁護士 裵 悠
1 婚姻費用・養育費とは
夫婦は、同居・別居に関らず、資産や収入その他一切の事情を考慮して、婚姻費用を分担しなければなりません(民法第760条)。婚姻費用には、夫婦の衣食住のための費用はもちろん、出産費用、子の監護費用、医療費、交際費など婚姻共同生活を営む上で必要な費用の一切が含まれます。また、養育費とは、衣食住の費用、教育費、医療費など子どもが経済的かつ社会的に自立するまでに要する費用をいいますが、子を監護していない親は、子を監護している親に対し、養育費を支払わなければなりません(以下、婚姻費用・養育費を受け取る者を「権利者」といい、支払わなければならない者を「義務者」といいます)。
なお、婚姻費用・養育費については弊所の他のコラムに詳しい記載がございますので、そちらをご参照ください。(『別居後の生活費「婚姻費用」について』https://www.legal.ne.jp/column/orbis2194/ 『養育費の金額算定について』https://www.legal.ne.jp/column/%e9%a4%8a%e8%82%b2%e8%b2%bb%e3%81%ae%e9%87%91%e9%a1%8d%e7%ae%97%e5%ae%9a%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/ )
2 婚姻費用分担の始期・終期
それでは、権利者はどの時点から婚姻費用を請求できるのでしょうか。
婚姻費用分担の始期に関しては、要扶養状態発生時からとする説、要扶養状態を知り得た時期からとする説、別居時とする説などがありますが、実務的には請求時以降とするものが多数を占めます(東京高決平28・9・14判タ1436・113など)。請求時については、調停又は審判の申立時だけではなく、内容証明郵便をもって婚姻費用分担請求の意思を確定的に表明した場合には、当該時期が婚姻費用分担の始期になるとされることも多いです(東京家審平27・8・13判時2315・96)。
婚姻費用分担の始期が請求時とされるのは、請求時以前の婚姻費用も分担するとなると、義務者が一時に支払わなければならない金額が多額に及んでしまうため、公平の観点から問題があると考えられるからです。そのため、義務者の資力が十分である場合や、権利者が要扶養状態であることを知りながら義務者が権利者の請求を妨げたなどの事情があれば、義務者にとって不公平とはいえないため、請求以前の婚姻費用の分担が認められる可能性があります。
婚姻費用の終期については、離婚もしくは別居の解消時(ただし、別居を解消しても家庭内別居となる場合には、生計を一にする時)となります。
3 養育費分担の始期・終期
養育費分担の始期についても、婚姻費用の分担と同様に公平の見地から、原則としては請求時とされます。ただし、認知した子については、認知前には父親と子の間に法律上の親子関係がなく、養育費の分担請求が出来ないため、民法784条の認知の遡及効にしたがって、認知された幼児の出生時にさかのぼって分担額が認められたという事例もあります(大阪高決16・5・19家月57・8・86)。
養育費の終期については、子が未成熟子ではなくなった時であるとされます。具体的な終期ですが、過去には高校卒業年齢の満18歳に達する日(又はその日の属する月)とされることが多かったものの、大学や専門学校への進学率の増加という社会的変化を受けてか、現在は満20歳に達する日(又はその日の属する月)とされることが実務では支配的です。なお、平成30年の民法の一部改正により、成人年齢が満18歳に引き下げられました(令和4年4月1日施行)が、大学等への進学率の増加という社会状況に変わりはありません。したがって、実務的には今後も養育費の終期については満20歳に達する日(又はその日の属する月)とされる状況が継続するのではないかと考えられます。
4 最後に
以上のとおり、権利者が婚姻費用又は養育費の分担を請求できるのは、原則として、義務者に対して請求を行った時となります。しかしながら、法律の専門家ではない権利者が、独力で義務者に対して請求を行うことは困難な場合もあります。
弊所には、婚姻費用・養育費の分担請求を扱っている弁護士が多数所属しております。婚姻費用分担・養育費の請求についてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。