弁護士 丁海煌
2022年1月27日、韓国で重大災害処罰等に関する法律(以下「重大災害処罰法」といいます。)が施行されました。
日本ではほとんど取り上げられることはなかったと思いますが、韓国では立法当初から経済界や労働組合を中心に激しい議論が交わされた法律です。
同法の簡単な内容は以下の通りです。
・事業主または経営責任者が安全保健確保義務に違反し、「重大産業災害」が発生した場合、事業主又は経営責任者に対して、死亡については「1年以上の懲役又は10億ウォン以下の罰金」、負傷および疾病に対しては「7年以下の懲役または1億ウォン以下の罰金」を科す(重大災害処罰法第6条)。
・「重大産業災害」とは、①死亡者が1名以上発生、②同一の事故で6カ月以上治療が必要な負傷者が2名以上発生等をいう(同法第2条2号)。
・安全保健確保義務に違反した法人や機関は、死亡事故の場合は「50億ウォン以下の罰金刑」、負傷および疾病の場合は「10億ウォン以下の罰金刑」に処される(同第7法)。
・懲罰的損害賠償制度も導入し、事業主や法人などが故意または重過失により安全保健確保義務に違反し、重大災害の発生および損害を負わせた場合、損害額の5倍までの賠償責任を科す(同法第15条)。
このように同法は、重大労働災害が発生した場合には、法人のみならず経営責任者個人に刑事罰が科され、場合によっては懲役刑まで科されうるという非常に厳しい内容となっております。個人が処罰されるというのであれば、経営責任者の成り手がいなくなるとして経済界からの反発は相当激しいものがありました。
ただ、同法が制定された背景としては、韓国における深刻な労働災害状況があります。
2020年の韓国での労災による死亡者数は882名(雇用労働部発表)のに対し、2020年の日本での労災による死亡者は845名(厚生労働省発表)です。
韓国と日本の約2.5倍の人口比を鑑みれば、いかに韓国での死亡者数が多いのかがわかると思います。
経済界の反発にもかかわらず労働者保護の観点から同法が施行された以上、韓国に進出している企業及び進出予定企業も同法の内容を理解した上で遵守する必要があります。
紙面の関係上、経営責任者や企業に求められる具体的な安全確保義務の中身については省略いたしますが、同法は施行されたばかりであり、今後の動向について注視していく必要があろうかと思います。
同法の詳細な内容等ご不明な点がございましたら弊所に気軽にご連絡頂ければと思います。