弁護士 金田正敏
1 家族信託とは、生前に財産の管理権を健康な家族に託すことによって、信託した財産を守り、運用する制度のことで、原則として裁判所の監督の下に行われる後見制度と比較されることの多い制度です。家族信託では、裁判所や専門家などの第三者の介入を必要とせず、その報酬金額も任意に設定でき、財産の管理処分の範囲に強制的な制限がつけられることもない、など、自由度の高い制度として注目されています。しかし、託したいと考える財産の中には、家族信託とすることができない財産があることはご存知でしょうか。今回は家族信託にできない財産について解説いたします。
2 家族信託では、原則として委託者(財産を託したい人)が所有している財産であれば、ほとんどの財産を対象にすることができます。たとえば、①預貯金②土地建物などの不動産③自分が経営する会社の事業自体や株式④保有している絵画、美術品や貴金属などの動産、⑤ペット、⑥ゴルフ会員権、特許権や著作権といった知的財産権などの種類があります。これらの財産を、受託者(財産信託を受ける人)に託すことで、孫の学費を代わりに払ってもらうことや、金融商品を選んで投資してもらう、子供の借金のために不動産に抵当権を設定してもらう、などの、これまで後見制度では対応することができなかった行為を受託者にお願いすることができるといったメリットが家族信託にはあります。
3 しかし、上記財産以外に、以下の財産は信託することができない、難しい財産として分類することができます。まず、❶証券会社の口座で管理している株式や国債については、信託する財産を管理する口座を開設することができず、証券会社が家族信託という新しい制度に対応してくれるまでは、受託者に実質的に信託することができない、ということになります。また、一身専属的な財産は信託することができません。具体的には❷年金受給権、生活保護受給権といった、その人限りで財産的な価値を持つ権利などを指します。さらに❸借金などの負の財産についても、信託財産とすることができません。そして、不動産の中でも❹農地に限っては、法律上、農業委員会の許可を得なければ信託することができない、という制限があります。
4 高齢化に伴い、多くの方がご自身や家族の老後についての不安を抱くようになっています。認知症を発症する患者数も増えているなか、遺言や後見制度ではカバーすることができなかった部分を、家族信託という制度を有効活用することで解決できるケースがあります。上記内容に限らず、生前での財産処分、管理の方法に迷った場合や、家族信託、後見制度について詳しく知りたい場合には、ぜひ当事務所までお問い合わせください。