弁護士 成末奈穂
ご自身の相続に関する「想い」を「遺言書」で遺したい、と思われる方は多いです。遺言書作成の段階で弁護士にご相談頂いた場合は、お亡くなりになられた後に相続人間に争いが生じないよう、予め、弁護士が依頼者のご意向を確認し、ご意向に法的な問題があれば、それをご指摘したうえで遺言書の文案を作成します。また、遺言書の検認手続が必要な自筆証書遺言(ただし、民法改正の際に創設され、2020年7月から開始された法務局における遺言書保管制度を利用すれば、検認は不要になりました。)ではなく、公正証書遺言を作成することをお勧めします。
しかし、残念ながら、弁護士や公証人など専門家の関与がないまま、自筆証書遺言を作成される方もいらっしゃいます。死後、自宅の金庫から自筆証書遺言が発見され、確認してみたところ「全ての財産を長男に相続させる」という内容であった、というケースはしばしば見受けられます。
上記のような内容の遺言書は、相続人間で紛争が生じてしまう典型的なものです。なぜかというと、民法上、一定範囲の法定相続人には「遺留分」が認められているからです。
「遺留分」とは、亡くなった人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限度の遺産取得割合です。具体的には、以下の法定相続人に遺留分が認められます。
・配偶者
・子ども、孫などの直系卑属
・親、祖父母などの直系尊属
上記のような不平等な遺言によって「遺留分」を侵害された法定相続人は、侵害した人に対し、遺留分(最低限度の遺産の取り分)の取戻しを請求することができます。この権利を「遺留分侵害額請求権」といいます。
遺留分侵害額請求権は、遺留分侵害額に相当する価値の返還を求めることができる権利であり、平たく言えば「お金を取り戻す権利」です。
たとえば、上記の「全ての財産を長男に相続させる」という遺言書があり、この遺言書の方式が、民法が定める要件を満たしていた場合で、被相続人の配偶者は既に亡くなっており、子ども4人(長男、次男、長女、次女)が法定相続人であれば、遺留分を侵害された次男、長女、次女の3人は、長男に対して、遺留分侵害額相当のお金の支払いを請求することができます。具体的には、子ども4人の法定相続分が各4分の1であり、遺留分は法定相続分の2分の1ですので、次男、長女、次女は、長男に対し、遺留分を算定するための財産の価額の各8分の1に相当する額のお金の支払いを請求することができます。つまり、遺留分を算定するための財産の価額が8000万円だとすれば、次男、長女、次女は、長男に対し、それぞれ1000万円の支払いを請求することができるのです。
上記のケースで、遺産が不動産しかなく、長男は現預金を相続していなかった場合、長男は、遺留分侵害額請求をされてしまうと、合計3000万円を自分で用意しないといけないことになってしまいます。次男、長女、次女と話し合いで解決できる見込みは薄く、訴訟になってしまうことも想定されます。長男としても、たとえば、「次男、長女、次女は、被相続人の生前にお金を贈与されていた」など、自分の支払いを少しでも減らす方向での主張をすることが多いので、訴訟が長期化することは往々にしてあります。
以上のとおり、ご自身の「想い」を遺したはずの遺言書が、内容次第では、ご自身の死後、相続人間での紛争の種になってしまいます。
遺言書作成の段階から、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。弊所には、遺言書作成はもちろんのこと、遺言執行者の経験もある弁護士が複数所属しています。お気軽に弊所までお問合せください。