弁護士 金愛子
現在、日本は少子・高齢化が急速に進んでいます。少子・高齢化が進むにあたって問題となるのが、「労働者人口の減少」です。企業側としては、「働き手が少なくなる」という問題があります。また、労働者側としては、「長生きしたいが、お金がないと不安だ」という問題点もあります。
このような時勢の中、2020年に改正された高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者安定雇用法」といいます。)が、2021年4月1日に施行されました。
そもそも、高年齢者安定雇用法は1971年に「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」として制定されたものです。2012年と2020年に大きく改正されましたが、本稿では、2012年の改正を簡単におさらいした上で、2020年の改正内容、つまり2021年4月から企業が行うべき対応について、注意喚起したいと思います。
(1)2012年改正の内容
①定年を60歳とすることの禁止
②65歳までの雇用確保措置→以下のいずれかの措置を企業側に義務付け
・定年を65歳までに引き上げ
・65歳までの継続雇用制度の導入
・定年制の廃止
このように企業は、継続雇用を希望する者を全員、継続雇用しなければならないのが原則です。継続雇用対象者を限定できる例外は、(ⅰ)健康状態に問題があり、雇用に適さない者、(ⅱ)2013年3月31日までに労使協定で継続雇用対象者を限定すること及びその基準について合意している場合、となります。
(2)2020年改正の内容
2012年の改正は、「65歳への引き上げ」が主目的でしたが、2020年の改正は、「65歳から70歳への引き上げ」が大きなポイントとなっています。具体的には、以下の①~⑤のうち、いずれかの措置を講じるよう努力義務を負います。
①定年を70歳に引き上げる
②70歳まで継続雇用する制度を導入する
③定年制を廃止する
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度を導入する
⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度を導入する
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
上記①~③は、高年齢者就業確保措置といわれます。④⑤は、創業支援等措置(雇用によらない措置)といわれ、過半数労働組合等の同意を得て導入されることになります。
このように、2020年改正は企業に「努力義務」を課すのみですが、これを無視することはできません。罰則はありませんが、毎年6月1日現在の高年齢者雇用状況報告をハローワークに提出しなければならず、不適切な状況であれば、行政からの指導対象となります。
また、努力義務ですので、70歳までの継続雇用にあたり、対象者を限定することが可能です。この場合、労働組合等と十分に協議した上で、客観的な基準をもうける必要があります。
どのような 措置をとるべきか、対象者を限定する基準をどう定めたらよいか等、不明な点がありましたら、弊所までお問い合わせ下さい。