弁護士 李 麗奈
1. 遺留分制度とは
遺留分制度とは、一定範囲の相続人(遺留分権利者)に相続権を保障する制度です。被相続人(お亡くなりになられた方)は、遺言による遺贈や生前贈与などにより、一部の相続人にのみ、あるいは相続人以外の者に財産を残すことも可能です。しかし、このような遺贈等を無制限に認めると、近親者であっても遺産を全く相続できない、あるいはごくわずかしか相続できないことになります。
そこで、相続人間の公平、近親者である相続人の生活保障、近親者の相続財産形成への貢献等の観点から、このような遺贈等を一部制限し、遺留分権利者に被相続人の財産のうち、一定割合について保障する制度が遺留分制度です。
ただし、遺留分権利者は権利の行使(遺留分減殺請求)を一定期間内に行わなければならないことにご注意ください。
2.遺留分権が中小企業の事業承継の弊害になること
(1)弊害となる理由
中小企業の事業承継を考えていらっしゃる経営者の方は、遺留分制度が、事業承継の弊害になりうることにご留意される必要があります。中小企業の経営者の企業の経営者であった方が個人財産として有していた自社株式、会社経営のために必要な不動産等を会社の後継者に遺贈または生前贈与しても、他の相続人が遺留分権を行使することにより、後継者が事業承継するにあたって必要な資産を承継できず、事業承継が円滑に行えなくなってしまうためです。
(2)遺留分権制限に関する法令状況
上記のような問題に対応するために、2008年には「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が制定され、相続人らの合意の下に遺留分権を制限する制度を規定しています。
また、民法の相続関係に関する法律改正(2018年7月に成立)の遺留分制度に関する部分で、後継者への事業承継にとって有利な改正等がありました。具体的には、
①遺留分侵害額について、債務を金銭で支払いできること(改正前は、減殺請求を受けた者は現物を返還することが原則であるとされていました。)
②遺留分侵害額の支払いについて、裁判所が相当の期限を許与できること
③遺留分侵害額を算定するにあたって、考慮に入れる遺贈・生前贈与等の範囲について、改正前よりも制限した範囲に変更される
等です。
ただし、改正後の規定が適用されるのは、遺留分制度に関する同改正の施行日である2019年7月1日以降に相続が開始した場合となります。
3.韓国の相続法が適用される場合とは
相続に関する法律は、日本に居住する場合であっても、被相続人の本国法、すなわち国籍を有する国の法律が適用されることが原則です。そこで、韓国籍を保有する在日韓国人が被相続人である場合、原則として韓国法が適用されます。
ここで、相続人の国籍が日本国籍であっても、適用される法律は、同様に韓国法であることに注意が必要です。
韓国法における相続制度は、法定相続分、遺留分の割合、法定相続人の範囲等が日本法と異なります。
しかし、韓国法においても日本法と同様に遺留分制度が存在しますので、中小企業の事業承継に関して、遺留分権による弊害への対処を検討する必要があります。
相続に関する日本民法の改正内容、韓国相続法の詳細、または事業承継への対策に関してご不明な点がある場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。